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ブリオニアの話を練ろうの会(1)
2018/12/07(Fri)
「そんなやつ……見返したいと思わない?」
 話しかけてきた青年は静かに提案した。青年と形容したものの、老成しているような、幼子のような、不思議な印象を与える見た目だ。
 彼の話を聞いている少女ブリオニアは、数日前に赤い目が怖いという理由で恋人に別れを告げられていた。自分ではどうにもできない部位を怖いと言われ、自分自身を受け入れられない日々を過ごしている最中だ。
 目の前の彼もまた赤い目をしていたが、髪色も色の合った赤茶である。彼のように、自然な色味をしていたら、もしくは、自信をもった話し方ができていたならば。
「代償を支払う勇気があるのなら、それでも叶えたいと願うのなら……僕とおいで、ブリオニア」
 彼は名を呼んだ。ああ、そういえば、はじめに名乗っていたっけ。その時に確か、彼の名も聞いていた。
「戻る場所のない私に道を示してくれるならむしろ有難いことよ、マクセル」
 差し出された手を取り、煉瓦の通りをともに歩んだ。

 ○

 果たしてブリオニアは代償として嗅覚を失い、メルヒェン魔女軍の第四将として正式に任命された。
「ポケモン二匹しか持ってないのに、第四将なんて肩書つけちゃって大丈夫だったの」
「ポケモンは数じゃねえ、個々の強さだ。人間も同じ」
 そう答えたのは、第一将、毒虫のクァルトだ。その肩書の通り虫タイプと毒タイプの扱いに長ける、緑のゴーグルが印象的な青年だ。
 思い返せば、ブリオニアで第四将なのだから魔女軍といえど少数精鋭の方針をとっていることになる。
「ヤミカラスとスワンナか。マクセルが護田鳥のブリオニアと呼ぶのもわかる。……それにお前の懸念もわかる。少し心許ないメンバーだな」
「悪かったわね」
「今から鍛えるってことだろ。にしても、なぁ……『烏と白鳥』か」
 マクセルも言及していたことを、今度はクァルトが言った。深緑の目が細められる。
 やはりそう見えるのか、とブリオニアは思った。実のところそのとおりで、数日前までコアルヒーの頃から連れ添ったスワンナだけがブリオニアのポケモンだったのだが、恋人と別れたある日、何度も湖に浸かって身体の汚れを落とし、他の鳥ポケモンたちに混ざろうとするヤミカラスを偶然見かけた。まさに『烏と白鳥』そのままであるうえ、この「砂の民」の先祖譲りらしい銀髪と赤い目を疎んじていたブリオニアと、あまりにも状況が重なってしまったのだ。
「おいで。……懐っこいな」
「まあもともと、他の鳥ポケモンの群れに混ざろうとしてたぐらいだし」
 度胸があるのか、何も考えていないだけなのか。ヤミカラスはクァルトの膝の上を陣取り、撫でられるたびうっとりとした表情を浮かべていた。
「暗い場所で真価を発揮するポケモンだ、ゲシュテルンでトレーニングするのが良いだろう。あそこなら、闇の石が見つかるかもしれないし」
「ゲシュテルン……」
 崖と岩場が連なるゆえに日中も陽の光がほとんど入ってこない、北西部の町だ。南部の深雪の町ブランシュネージュ育ちのブリオニアにとっては、そこに行くだけでも冒険である。
「俺も相手になるし」
「いいの?」
「かつての信仰対象の情報が入ってこない限り、魔女軍ってのは暇なんだよ。お前も、マクセルが呼んだら動きゃいいから。それまでは精々、俺……いや、ロッシュとリーヴェに並べるぐらいにはなれ」

 ○

「翼で撃つ!」
 まずは飛行タイプの技を、とクァルトに提案されゲシュテルンの岩場で一行はひたすら試行錯誤していた。
「中心を捉えてない。そんなんじゃ俺のレーレは倒せないぜ」
 対するクァルトとアメモースのレーレは余裕の表情だ。
「ヤミカラス、もう少し真っ直ぐ……あっ、いたそっ!」
「周りもよく見ろ」
「はいっ」
 攻撃を正確に当てようとすると、周りの確認がおろそかになり、岩や崖の切り立った部分にぶつかってしまう。
 反射神経と空間把握。これらの能力が問われるのは、何も前線で戦うポケモンだけではない。むしろトレーナーがどれだけ状況を理解し整理できているのか、ポケモンバトルではそれがしばしば結果を決める。
「こっちも行くか。レーレ、怪しい風」
 その風であたりが更に暗くなり、ブリオニアは崖に手をついた。ヤミカラスは暗所でも視力が効くはずだ。ならばこの技は、ブリオニアへの試練として選ばれたのだろう。
「諦めないよ。ヤミカラス、崖を蹴って」
 風に飛ばされたヤミカラスは、それでもブリオニアの指示を聞いて体勢を立て直す。
「その勢いで突っ込んで!」
 崖を蹴ったことにより素早さが増し、ヤミカラスは自身の翼を思いっきり叩きつけた。アメモースのレーレはふらふらと地に降りる。戦闘不能ではないが大ダメージだ。
「このダメージ量、急所を捉えたな。さすが強運の持ち主。だが、運と実力は伴うものだからな」
「有難う。ヤミカラス、今の感じ覚えとこうね」
「カァ」
 いつの間にか日は傾き、横向きに光が差し込む。そこに一陣の風が吹き、バトルで壊した岩から濃い色の光が顔を出しているのがわかった。
「おい、闇の石だぞ」
「えっ」
 ブリオニアが返事をした頃には、光りものに目がないヤミカラスは石の前まで飛んでいた。そして、夕日よりも強い光をその場で放つ。
「進化だ!」
 その光景にブリオニアの視線は釘付けになった。進化の瞬間を見たのは自身のスワンナに続き二度目だったが、光り方が違うからか二度目でも全く飽きない。
「ガアアース!」
「やだかっこいい!」
 進化したばかりのドンカラスをブリオニアが抱きしめる。ドンカラスはメスなのだが、その言葉を聞いて満足そうに笑った。



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