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グローマの話を練ろうの会(6)
2018/11/09(Fri)
 オウルの一番手はオオタチだった。先程おいしい水を飲み干し、ダンス後だというのに涼しい表情をしている。
 迎え撃つはデイジのシュプワン。仲間になったばかりでまだフットワークに懸念が残るが、やはりコクリンを代表するポケモンであるからか、見物客からわっと歓声があがった。
「道中で経験値はそこそこ積めた。びびんじゃねえぞ」
「バウッ!」
 シュプワンは勇ましく吠えた。
「早速いこうか。とぐろを巻く」
「アクアリング」
 互いに準備を整える。オオタチはわだかまり、攻撃力と防御力と命中率を上げる。となると、シュプワンは特殊攻撃である水の波動を中心に落とす戦法をとることとなる……が。とデイジは考え直した。
「アクアジェットで間合いを詰めろ。そして……」
 広いとはいえない舞台の上を水の噴射でかっとばす。何度も練習した戦法だ。
「怖い顔」
 威力を保ったまま表情を凄め、ぶつかる。防御力を上げていたオオタチにはたいしたダメージにはならないが、その後の動きが鈍くなったことはデイジにもはっきり見て取れた。しかしオウルは余裕の表情だ。
「そちらから間合いを詰めてくれるなんて。こっちもやらなきゃね、叩き付ける」
 オオタチは前足でシュプワンの尻尾をつかみ、そのままシュプワンの小さな身体を舞台に叩き付けた。いいぞー、と声があがる。
「シュプワン!」
 突然のことに受け身もとれなかったシュプワンは呼吸を荒げるが、アクアリングの癒しの効果もあってどうにか持ちこたえた。
「水の波動」
 至近距離でその技を放つ。その技の効果を知る観客たちは、敢えて視線をそらした。こんなネオンの輝く夜、迂闊に視界に入れでもすれば目が白黒するのは避けられない。
 オオタチは一旦距離をとる。これで乱戦状態は終わりだ。次で決まる、観客も、オウルも、デイジも、皆そう思った。
「アクアジェット」
 その技に、オオタチもすぐに反応した。素早さの落ちているオオタチになら余裕で決まる、とデイジはたかをくくっていた。しかし、指示のあと、場に倒れているのはシュプワンのほうであった。
「シュプワン……」
「はあ……不意打ち。この技があってよかった」
「そうか……」
 迂闊だった。攻撃技を指示していれば必ず先制できる技、不意打ち。デイジも一本とられた思いだった。
「シュプワン、練習した戦法は決まった。よくやったよ。あとはあいつに任せとけ」
 デイジはシュプワンをボールに戻し、すぐに一番取りやすい位置のボールを取った。
「いくぞ……パレード!」
 長年の相棒、ドンファンのパレードが舞台に降り立つと、地響きが上がる。強度としては大丈夫そうだ、とデイジは確信した。
「転がる」
 パレードはすぐ体勢を変え、オオタチに身一つでぶつかった。まだ勢いは弱かったがオオタチは吹っ飛び、その身を追うようにもう一発。オオタチは舞台の上で伸びてしまった。
「オオタチ、お疲れ様。そのドンファン……エースとみた。熱くなってきたねえ皆ァ!」
 おおー、と歓声がかえってくる。こんな時でもファンやバトル愛好者とのコールアンドレスポンスを忘れない。キャリアの割に肝の据わった人物であると、デイジにもわかった。
「踊ろう、ラッキー!」
 それに、ノーマルタイプでも特に厄介なラッキーときた。本気で挑まねば勝てない。
「パレード、勢いのままいけ!」
「そうはさせない、小さくなる!」
 三発目がラッキーにぶつかるかと思いきや、ラッキーは少しだけ身を縮めてその攻撃を避けた。
「げっ」
「ラッキーの戦法、知ってるでしょ。こちらも容赦しないさ」

 それから、おおよそ十五分が経過した。ラッキーが相手ということでデイジも覚悟してきたが、あと少しのところで転がるを避けられ、タマゴうみで回復され。しかしラッキーもドンファンを落とすには攻撃力が足りず。
「集中力は切れてきたかい?」
「……見せられるバトルじゃねえだろ、こんなん」
 しかし観客は慣れっこなようで、ほとんどが場を去ることなく戦況を見守っている。常にラッキーの戦い方を見ているからこうなるのだろう。
「決めるぞ」
 デイジはパレードに耳打ちした。
「地ならし」
 パレードは舞台をゆっさゆっさと揺らす。小さくなったラッキーはぱたぱたと足を動かして威力を減らそうとするが、それでも足下がもたついてしまう。
「やっぱり俺たちにはこれしかねえ!」
 パレードは再び、転がる体制に入る。
「それは効かないって……え?」
 一発目は見事ラッキーをとらえた。先程より明らかにコントロールが良くなっている。
「こちとら旋回が効きにくい砂地で戦ってきたんだ! こんな場所で負けるか」
 気迫もたっぷりにデイジが宣言した。観衆も期待のまなざしを向ける。
「ここで当てなきゃ砂の民のポケモンじゃねえー!」
 果たして、パレードはデイジの声に応えた。勢いを増し、その素早さで確実にラッキーをとらえる。
 ラッキーはもとの大きさに戻り、目を回した。戦闘不能だ。
「ラッキー! なんで……」
「……地ならし。あれで少しだけ、場を傾けておいた。あとはラッキーを低い場所に誘導していけばいいだけ」
「気づかなかった。ともかく、俺の負けだ。受け取ってくれ」
 オウルの手から、デイジに勝利の証、ノーブルバッジが手渡される。それで、今まで見守っていてくれた観衆も、デイジに声をかける。
「いいバトルだったぞー」
「私、バトルなんて全然わからないんだけど、なんか今日のは熱かった! またカネナリ来てねー」
 デイジはパレードとともに呆然とした。これまでは、使命のため、民のためのバトルだった。勝つことに何より拘り、日々研鑽を積んでいた。
 それが今、誰かを楽しませられているのか、こんなに暖かい言葉をかけてもらえるのか、と。
 思いを言葉にできなかったデイジは、貰ったノーブルバッジを掲げて声に応えた。カネナリの、ある夜の話であった。



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