師と親と子と弟子と


「ピクニック……?」
「そうだサイキ、君も来なさい。」
「ちょ、待っ……。」

 数ヵ月ぶりに顔を合わせた師は、突然ピクニックに行くと言うとさっさと歩いて行った。
 目の前に広がるのは確かに緑だが、まだ少しチラホラと雪は残っている。
 こんな所でピクニック? などと疑問が頭をよぎるが、こちらの考えなどお構い無しで彼は先へ進んで行く。
 仕方ない。ため息をついてその後を追った。
 元々別の地方であるこのナズワタリに来ているのは、ハクリューにせめて親と顔を合わせる機会を与えようと思ったからだ。
 それがわざわざ彼女の親であるカイリューを連れて行かれれば、行かないわけにもいかない。
 来なさいと言われたのであれば駄目という事もないだろうし。

「こんな辺鄙なとこでわざわざピクニックなんてしなくてもいいだろうに。」
「たまの気分転換だ。さぁそっちを持って広げてくれ。」

 シートの端を指されて思わずため息が出る。
言われた通り広げれば、その上に二人で座った。
 ハクリューはと言えば、二匹のカイリューに何やら嬉しそうにじゃれている。
 どんなに自分になついていると言っても、やはり親の側は嬉しいのだろう。
「ほら、サイキ。君の分だ。」
 紅茶の入ったカップを渡される。
 温かいそれに思わず包み込むように持ちながら、師の方を見た。

「寒いのにわざわざやる必要はあるか?」
「そうは言っても君は暑いと倒れるだろう?」

 皮肉を投げれば、同じように返ってくる。
 言葉に詰まり返す言葉が思い付かないと、大きく一息吐いてカップを置くとそのまま横になった。
 冷たい風が頬を撫でて流れる。
「悩みがあるのだろう?」
 動きも、思考も停止する。
 少し遠くの方でじゃれながら鳴くポケモン達の声は、耳のなかに入ってきた。
「いつも何か言いたそうに来て帰って行くからね。」
 聞いてもいないのに答えてくる。
 お見通し、といった感じ、か。
 チッと思わず舌打ちが出たのは、元来のプライドの高さ故だろう。

「それで、どうしたんだ?」
 言っていいものか、悩む。
 人生相談のために来たわけではないのだから、言葉も準備していない。
 相談、というより聞きたいこと、は確かにあったが。
 言葉を吐き出そうと開いたはずの口は、結局ため息しか出なかった。
 次の瞬間、腹にボンッとハクリューが落ちてくる。

「っ?! お前……何だいきなり……。」
「きのみをくわえてるようだな。」

 言われて口元を見ると、一個のきのみをくわえている。
 これはオレンの実、だろうか。
 手を出すとコロンと乗せてきた。
 食え、ということか……この固い実を生で。
 途方に暮れていると、隣で師が少しだけ笑った。
「ったく……気持ちだけ受け取っとくよ。」
 ポンポンとそのままハクリューの頭を撫でながら立ち上がる。
 慣れた様子のハクリューはゆっくりと首に巻き付いて来た。
「そろそろ帰る。世話になったな…。」
「またいつでもおいで。」
 ほんの少し、色々なものが軽くなった気がした。

【師と親と子と弟子と】

「ところできのみは人が食っていいのか?」
「まぁ食べれないことはないだろう。」


 69さんより、サイキさんとゼンショウ