白羊宮

Mar.21-Apr.19

花などなくてもここは春です

 にっくきあいつがお国のものになって、やっと俺にも出番がと思えば、ポッと出のやつにそれもとられて。
 ただ、どちらかというと仏頂面なそいつは俺には優しくしてくれて、弱る。
 今まで、誰かにあたたかさを向けられたことなどなかったから。

3月31日
鉄道国有法 関西鉄道国有化(伊勢鉄道視点)

愛とは新しい罰のことですか

 俺を拾ってくれた恩人が崇敬するそこへは、知らないやつが行くことになった。
 今は自分のことだけでなく、彼のことを思って、悲しくなる。
 こんな気持ちは知らないほうが、と思ったそばから、再び案を練り直す。だって、他にやり過ごす方法を知らないから。

4月19日
大和鉄道に山田まで、
伊勢電に松阪どまりの免許

金牛宮

Apr.20-May.20

星なんてただの物語だった

 辿り着くまでに何年かかっただろう。
 星というものが本当にあるのなら、俺はそんな大物になる存在ではないのかもしれない。
 ああ、それでも、この苦労もすべて星のしるべだというのなら、これから歩める物語があるのか。

5月14日
伊勢軌道会社を立ち上げ

夕暮れの色した薔薇

 所詮は駒だとわかっていた。西から来た参急を名乗るあいつに入れ込むのは危険であろうことも。
 目の前で無垢な笑みを浮かべる彼は、どこまでわかっているのか。
 あるいは、俺と似たような経緯でありながら、彼に協力する彼女は。

5月18日
参急中川―松阪、参急中川―久居開業
中勢鉄道→大和鉄道

双児宮

May.21-Jun.21

好きなまま去ってもいいですか

 譲れなかった。誰の妥協案も聞く気になれなかった。
 不利なことはわかっている。あいつの後ろには京浜間で成功したやつがいる。
 だけど、たまには俺が選ばれたっていい。結局そんな思いを捨てられないでいるのだ。

6月18日
伊勢鉄道と養老鉄道で四日市桑名間を競願

獅子宮

July.23-Aug.22

群青にだけは染まっても良い

 なあ京阪、と話しかけても、彼女は返事をしなかった。返事など必要ないと互いが理解している。
 だから彼女の名を借りて、虚空にぶつける。
 少し強がりはあったけど、育ての兄に心からの気持ちは伝えられた。
 だから、今は少しだけ、

8月1日
信貴生駒電鉄 枚方線を交野電気鉄道に譲渡(交野視点)

磨羯宮

Dec.22-Jan.19

永遠のある街

 思えば開業路線として関わったのはここまでだった。
 江戸の頃から活発に巡礼者が行き交いだしたこの道を、今じゃ特急電車が走っている。
 そんな世になっても、相も変わらず太陽は三輪山から昇っているし、二上山に沈みゆく。
 高規格路線をもってしても、風景を一変させるなんてことは容易くない。参拝きっぷを持った人たちとすれ違い、今日も思う。

1月5日
大阪電気軌道 大軌八木−桜井間開業

宝瓶宮

Jan.20-Feb.18

光芒を梳くように

 まっすぐ駆けるように、というようにはいかなかったかもしれない。
 それでも、目抜き通りの喧騒にさらに軋み音を加えながらカーブを慎重に抜ける、イムペリアルスカーレットの電車が俺は好きだった。
 あまりの轟音に振り返った少年は、それでも目を輝かせていて。次は乗ってな?

1月30日
伊勢電気鉄道 四日市−桑名間開業

エリクシルの半分

 走るは車両、伸びるは路線。
 生まれたときは弱かったがなんとかここまで大きくもなれたわけで、それゆえに車両が引退するとき、見送る役目にあるのはいつだって自分のほうで。
 新たな土地や大切な人を幾度も繋げてくれた12200系の最後の定期運用で、たどり着いたのはここ、大和西大寺であった。
「半世紀。走り尽くせたかい」
 そう落ち着いて声をかけたつもりでも、こみ上げてくるそれをごまかしたくて歯をくいしばる。
 沿線に良く似合う紺と橙色の塗装。扉が閉まるその時まで、見逃してはならない。

2月12日
近鉄特急12200系、定期運用を離脱

双魚宮

Feb.19-Mar.20

寝室でだけ聴いてやる話

 榛原を出ると、車窓の向こうに道が広がっている。初瀬街道沿いのこの路線では珍しい光景だ。
 あの筋を進めば伊勢本街道。かつて大軌が志した道だ。
 今の経路で不満はない。むしろこのほうが宿場町も多く結果としては良かった。
 しかし、夢のはじまりというものは……、列車は進む。このあたりでよしておこうか。

2月21日
参宮急行電鉄 長谷寺−榛原間開業

旅行者ともう一人

 海岸育ちの者として、はじめて山側に線路を伸ばしてみれば、そこには到底歓迎できない奴がいて。
 その傍ら、延伸したら連絡駅をと言ってくれるひともいて。
 大規模な延伸で不安がないこともないが、旅の道連れ、いろんな奴がいると思えば、感情をあまり表に出さずにやり過ごせそうだ。

2月26日
伊勢電気鉄道 津新地−新松阪開業

心臓だけはいつまでも赤い

 鉄の匂いは血の匂いに似ているらしい。そう言っていたのも兄であるから、確証を持つすべはない。
 それでも、あの華々しい日に抱きしめられた時のぬくもりは、ただの道であるはずの兄と自分との結びつきをより一層強くさせた。
 準備は整った。もう自分で走るしかない。

3月17日
参宮急行電鉄 山田−宇治山田間開業
参急本線全通

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as far as I knowさんの黄道十二宮お題を近鉄関係の記念日に当てはめたショートショート群です。
朝の病さんのテンプレ(※改変あり)およびエナメルさんのガチャ景品を使用しています。